
文法嫌いな人にこそ読んで欲しい。そんな名著が「ヘミングウェイで学ぶ英文法」です。
「英文法」と聞くだけで敬遠したくなる人もいると思いますが、この本は受験勉強のための「文法書」ではありません。
退屈な例文も穴埋めの問題も載っていません。
アメリカ文学を代表する作家ヘミングウェイの6つの短編小説をそのまま題材にした、なんともぜいたくな英語学習書です。
ヘミングウェイの作風の特徴となっている、シンプルで無駄のない文章の行間を読み解くための入門書であり、英文学を深く味わうための指南書といえます。
直接的な試験対策にはならないかもしれませんが、ヘミングウェイの小説の中で実際に使われている「生きた文章」で文法を学ぶことができます。
「文法」を手がかりにして作者の意図を汲み取り、英文の真の意味を理解することができるようになります。
私が「ヘミングウェイで学ぶ英文法」を読んだ感想をひと言で表すなら、「ヘミングウェイってすげぇ!」です。
「文法」を知れば知るほど、ヘミングウェイの作品の奥深さを理解することができます。
文字面だけを読んで、わかったつもりのままで終わるなんてもったいない!
この記事では、ヘミングウェイの魅力と文法の本当の力を教えてくれる「ヘミングウェイで学ぶ英文法」を紹介します。
「ヘミングウェイで学ぶ英文法」のここがすごい!
「ヘミングウェイで学ぶ英文法」は、2019年5月にアスク出版から発行された英語学習書です。
著者は、倉林秀男先生(杏林大学外国語学部準教授)と河田英介先生(国士館大学政治経済学部講師)の二人。
英語学・英語文体論が専門の倉林先生が企画立案、文法解説、解釈のポイント、ワンポイント文法講義、アメリカ文学が専門の河田先生が和訳、作品解説、文学理論をもとにした考察を担当されています。
アーネスト・ヘミングウェイは、ノーベル文学賞を受賞した、アメリカ文学を代表する作家の一人です。
代表作の「老人と海(The old man and the sea)」は、英語学習者向けのおすすめの洋書入門書として紹介されることもあります。
ところが、翻訳家などの英語の達人たちには、「ヘミングウェイは実は難しい」という方が多いです。
なぜなら、必ずしも「使われている単語や文章が簡単=理解しやすい」とは言えないからです。
修飾語を極限までそぎ落としたような簡潔で骨太な文体は、よく「ハードボイルド」と形容されます。
会話と情景を伝える地の文だけで構成され、心理描写をしない独特の表現技法では、直接的には登場人物たちの感情は語られません。
したがって、表面的には読みやすくても、「何を言いたいのか、さっぱりわからない」という状態に陥りかねません。
そんなヘミングウェイの小説を読み解くためのカギが「文法」なのです。
この「ヘミングウェイで学ぶ英文法」では、ヘミングウェイの短編小説6篇が教材として取り上げられています。
- Cat in the Rain(雨の中の猫)
- A Day’s Wait(一日待つこと)
- The Sea Change(天変地異)
- Hills Like White Elephants(白い象の群れのような山なみ)
- A Simple Enquiry(ある割り切れない問い)
- The Light of the World(この世の光)
いずれも数ページ程度と短く、使われている単語も中学レベルのものが多いので、一見簡単に読めそうな作品ばかりです。
ところが、それが曲者なのです。
たとえば、can’tとwon’tを日本語に訳すことができたとしても、本当の意味の違いがわからなければ、登場人物たちの気持ちのすれ違いを理解することはできません。
「やっぱり文法は難しいそうだ」と思ったあなた、安心してください。
「ヘミングウェイで学ぶ英文法」では、文法が苦手な人でも読み進めていくうちに「なるほど、そういう意味だったんだ!」と納得できるように工夫されています。
まるで良質なミステリーの謎解きを楽しむような感覚で、先が気になって読み進めることができるのです。
各章は、6つの短編を「読み切る楽しみ」を味わいながら、同時に英文法に関する知識を効果的に高められるように構成されています。
①まずは和訳をチェック
最初に「和訳」が掲載されています。したがって、初級者でも作品の内容を把握することができます。
もちろん、中・上級者であれば、先に英語の原文を読んだあとで和訳を確認してもOKです。
②「ここに気をつけて読もう」
文法上の注意点と解釈のポイントがピックアップされています。
③「ここに気をつけて読もう」の解説
「ここに気をつけて読もう」でピックアップされた文法上の注意点と解釈のポイントについて、詳しく解説されています。
④ワンポイント文法講義
各作品ごとに「分詞・冠詞」「to不定詞・接続詞」「助動詞」などのテーマが設定され、実況中継風に解説されています。
⑤作品解説
各作品の読み方や解釈に関するアドバイスが提示されています。その作品の書かれた背景やヘミングウェイが伝えたかったメッセージを理解するためにとても役に立ちます。
①~⑤を手がかりに6つの短編小説を読むと、各作品の輪郭がしだいに鮮明になっていくことを実感できると思います。
それまで見えていなかった本当の意味を理解することができるようになっていく喜びをぜひ味わってください。
さらに、「ヘミングウェイで学ぶ英文法」には、題材として使われている6作品すべての音声が無料でダウンロードできる特典がついています。
つまり、ヘミングウェイの6編の短編小説を、オーディオブックとしても楽しむことができるのです。
なんて太っ腹で、素敵なサービスでしょう。
ヘミングウェイで英文法を学んだら、オーディオブックでリスニング力も鍛えちゃいましょう!
「ヘミングウェイで学ぶ英文法」を読み終えた後に読んで欲しいおすすめの本
「ヘミングウェイで学ぶ英文法」を読んだら、ほぼ確実にヘミングウェイのほか作品も読みたくなると思います(笑)
でも、いきなり英語の原文で読むと挫折するかも・・・と心配な人に、ぜひおすすめしたい本を紹介します。
まずは、南雲堂が発行している現代作家シリーズの「対訳ヘミングウェイ1」です。
タイトルの通り、ヘミングウェイの作品を日本語の対訳付きで読むことができます。
短編小説6篇が収録されています。
<収録されている作品>
- 殺し屋
- 清潔な灯りの明るい店
- インデアン部落
- 雨の中の猫
- 敗れざる男
- フランシス・マコーマーの短い幸福な生涯
同じく、現代作家シリーズの「対訳ヘミングウェイ2」には、「老人と海」が収録されています。
ヘミングウェイの代表作にチャレンジしてみましょう!
続いては、翻訳家の金原瑞人さんが選ぶ「My Favoritesシリーズ」(発行・青灯社)。
英語の原文と見開きで、丁寧な語注が掲載されているので、辞書なしでも読むことができます。
「キリマンジャロの雪/フランシス・マカンバーの短く幸せな生涯」には、短編小説2編が収録されています。
特に、「キリマンジャロの雪」は映画化もされたヘミングウェイの最高傑作とも言われている作品です。
キリマンジャロの雪 THE SNOWS OF KILIMANJARO / フランシス・マカンバーの短く幸せな生涯 THE SHORT HAPPY LIFE OF FRANCIS MACOMBER
同じく、「My Favoritesシリーズ」の「ストレンジ・カントリー」は、ヘミングウェイの死後に発表された中編小説です。
ここで紹介した対訳や語注付きのガイドブックを読んだら、ヘミングウェイ独特の文体にも慣れてくると思います。
その後は、「日はまた昇る」「武器よさらば」「誰がために鐘は鳴る」など長編小説の名作も楽しめるようになるでしょう。
あなたも、ヘミングウェイの魅力を味わってみませんか?